<娘>(未完) |
いつも、あの人を見ていた。母を見つめているあの人を見ていた。 物心が付いたときにはあの人は忙しい父の代わりにそばにいてくれるのが当たり前になっていた。 父がいない夜、いつもあの人は自分の隣で寝てくれた。 十一歳の誕生日。一緒にお風呂に入ろうとして服を脱いだとき、あの人は私を見つめていた。 少しずつ、少しずつあの人が私の手を離そうとしているのを感じた。 私が女だから?男だったらそばにいてくれたの? 父がいない夜、前は夕飯も朝食も一緒に取っていたのに夕飯のあとに来て、朝食の前に帰ってゆくようになった。父の代わりの朝の指導碁だけは続いていたけれど。 碁会所では前のように接してくれる。碁を続けていればあの人のそばにいられる。碁をやめたらあの人のそばに寄ることもできない。 あの人と母の関係に気付いたのは小学六年生の時だった。誰にも言えない。いつからだったのだろう。 父が入院している間に参加した研究会のメンバーたちをあの人が呼び出したと噂を聞いたのは進藤が手合いにでてこなくなった頃だったろうか。 父が中国リーグへ参加するため家を出てから、母は毎朝父へ電話を入れていた。 母へ父のところへゆくように勧めたのは自分なのに誰もいない家に戻ってくるとやはり寂しい。 市河さんや芦原さんにあの人が心配していると聞いたとき嬉しくて、でも私と顔を合わせるのを避けようとしていることも感じてしまった。母とのことがあるからなのか。 北斗杯の合宿、軽い気持ちで家の提供を申し出たのに進藤は気を使って自分の彼女やそのお姉さんを食事係として連れてきてくれた。二人に聞いたら二人のバイト代、地方の大学に行っているお姉さんの往復の交通費、食費全部進藤が出していた。申し訳なくて半額だそうとしたら進藤に断られた。 |
2004 年 01 月 06 日作成
|